(この記事は約 4 分で読めます。)
死亡事故で残された家族が、交通事故の相手方に金銭的な賠償を請求する場合、以下の2つの権利に基づく請求が考えられます。
- 被害者本人の逸失利益などに対する損害賠償請求権
- 遺族に固有の慰謝料請求権
そこで、これら2つの請求権の内容や取得の流れと、被害者が内縁関係にあった場合に内縁の配偶者にこれらの請求権が認められるか、について見ていきましょう。
請求権取得の流れ
ここでは、文頭で書いた2つの請求権をするまでの流れを簡単に見ていきます。
被害者本人の損害賠償請求権の取得
民法では、相続に関して以下の様に定められています。
民法896条
相続人は,相続開始の時から,被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する
つまり、被相続人(事故の被害者)の財産は遺族が全て引き継ぐということですね。
この財産には金銭や不動産などに限らず、損害賠償請求権などの法律上の権利も含まれています。
従って、交通事故が発生し被害者が亡くなった場合には、一旦被害者本人が加害者に対して逸失利益などの損害賠償請求権を取得することになります。
その上で死亡により遺族が損害賠償請求権を相続することで、加害者側に損害賠償を請求をするという流れになります。
遺族に固有の慰謝料請求権
死亡事故により残された家族に固有の慰謝料請求権の取得は、民法711条で以下の様に定められています。
民法 第711条
他人の生命を侵害した者は,被害者の父母,配偶者及び子に対しては,その財産権が侵害されなかった場合においても,損害の賠償をしなければならない。
家族が交通事故で亡くなった場合、通常は残された方の財産を侵害したということにはなりません。
しかし財産の侵害はないとしても、被害者遺族は交通事故により家族を亡くしたことで、精神的に大きな傷を負う事になります。
そこで民法は被害者保護の観点から、加害者に対する損害賠償請求を認めています。
そもそも内縁関係とは?
内縁の妻や内縁の夫という言葉はしばしば耳にすることがあると思います。
通常の場合は役所に婚姻届を提出することで法律上の夫婦と認められることになります。
一方で、内縁関係は実態は夫婦なのですが役所に婚姻届を出していない(つまり籍を入れていない)方々のことを言います。
法律で内縁関係が定められている訳ではなく、お互いの合意があり事実上の夫婦としての生活関係があれば成立します。
注:愛人関係の場合は常に共同生活を営んでいる訳ではないので、内縁関係とは認められません。
ところが内縁関係にある夫婦は、実態は夫婦だとしても法律上の婚姻関係にある訳ではないので、夫婦相互間で財産を相続する権利はありません(借地や借家の賃借権は相続できるという判例はあります)。
相続する権利がないことや、被害者の法律上の家族ではないことから、法律に則って考えると損害賠償請求権や固有の慰謝料請求権を、加害者に対して持つことはできないことになります。
そこで、民法711条が定める「配偶者」に内縁関係の者が適用されるかが問題になってきます。
内縁関係にあっても損害賠償&固有の慰謝料を請求できる!
内縁関係にある夫婦には法律上は相続の権利がありませんが、あくまでも実態は婚姻届を役所に提出している夫婦と何ら変わりありません。
そこで、被害者の逸失利益などの損害賠償請求権を相続することはできない一方で、内縁の夫に対して妻がもっていた扶養請求権が侵害されたと判断して、内縁の妻に損害賠償請求権を認めた判例があります。
また、死亡事故による固有の慰謝料請求権についても、実際の裁判では民法711条の「配偶者」に準じて請求権の取得を認めています。
①内縁の夫が交通事故で死亡した事例で、内縁の妻に対して慰謝料として1,000万円を認め、前妻の子供に対して慰謝料として1,600万円を認めた例
②約5年間同一生計で同居していた男女で男性が交通事故で亡くなった事例。
お互いの住民票の住所は同一ではなく婚姻の予定が明確ではなかったものの、内縁関係にあると判断し死亡慰謝料2,800万円を認めた例
③料理店の女将をしていた内縁の妻と同店舗の経営者である内縁の夫の事例。
女将が交通事故で亡くなり、経営していた内縁の夫にとっては女将が亡くなったことによる営業損害が発生するものの、営業損害と被害者が亡くなった事との相当因果関係を経済的一体とは言えないとして営業損害が認められなかった。
結果として被害者の事業上の役割については慰謝料額で評価する事が相当とし、慰謝料として1,300万円を認めた例
判例を見ると、内縁関係なので戸籍上も住民票上も別ですが、実態が夫婦と変わりなければ問題無いとされていることが分かりますね。
離婚率の高い欧米諸国では、最初から籍を入れない内縁関係にある夫婦が多いと言われています。
最近は日本も離婚率が高くなってきていることから、欧米の様に最初から籍を入れない夫婦という形が増えてくるかもしれません。
そういった場合に、内縁関係の夫婦には慰謝料請求権を認めないとしたのでは問題があるので、裁判の流れとしてはあるべき姿といえますね。
政府保障事業での取扱
政府保障事業では、内縁の配偶者については民法上の配偶者と同じ扱いをしています。
従って、内縁の夫婦間でも慰謝料請求権を取得する事が出来ます。
自賠責保険での取扱
自賠責保険では、保険会社は事実上婚姻と同様の関係にある者については、民法上にいう配偶者に準じて取り扱うこととされています。
従って、内縁の夫婦間でも慰謝料請求権を取得する事が出来ます。
関連記事をチェックする