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交通事故によって車が損傷を受けた場合、相手又は相手の保険会社から対物賠償として支払われる保険金は「事故時点の車の時価」が限度額となっています。
たとえ修理費用が車の時価を超えたとしてもです。
そのため、大きな事故に巻き込まれた場合、車を買い換えるにしても修理するにしても保険金が足りない、という納得できない状況に陥る事が多々あります。
ここで気になるのが、保険会社が提示してくる車の時価額がどのように算定されているのか、という点です。
金額だけ提示されても納得できませんよね。
そこで今回は、対物賠償における車の時価の算定方法がどうなっているのかについて紹介したいと思います。
特殊なケースの判例集も紹介しているので参考にしてください。
賠償額算定時の車の時価の調べ方~保険会社はレッドブックを採用~
各保険会社は、車の時価の算定に「レッドブック」と呼ばれる書籍を参考にしています。
レッドブックとは、正式名称が「オードガイド自動車価格月報(有限会社オートガイド発行)」と言い、メーカー毎に車種別・型式別の中古車価格(下取・卸売・小売価格)が掲載された専門誌です。
なお、日本自動車査定協会が発行する「イエローブック(中古車の卸売価格を掲載)」や「シルバーブック(中古車の小売価格を記載)」などもありますが、賠償額算定にあたってはあまり使用されていないようです。
保険会社以外に裁判所でもこのレッドブックが1つの指針として利用されているので、事故時の車の時価を算定する際の慣例ツールとなっています。
ちなみに、このレッドブックは国産乗用車用が年間10,300円、軽自動車用(バイク含む)が年間4,700円で販売されています(書店では販売されていません)。
ただし、業者用なので一般の個人が購入できるのかは不明です。
そのため、契約している保険会社にお願いして該当するページをコピー又はFAXしてもらえば良いと思います。
なんなら相手の保険会社に価格根拠の提示を求めれば、該当ページが見られるはずです。
買取査定で時価額を調べるのもアリ
前述したように、レッドブックは車の時価の算定に広く用いられていますが、掲載されている価格はあくまで標準的な金額なので実際の時価と大きく乖離している事もあります。
中古車の時価は、走行距離や装備などによって大きく変わってきますからね。
そのため、保険会社が提示した金額をふたつ返事で受け入れてしまうのは良くありません。
また、最高裁判所において以下のような判決が下されているので、交渉の余地は十分にあります。
交通事故により損傷を受けた中古車の事故当時における取引価格は、原則として、これと同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得するに要する価額によつて定めるべきである
(最高裁・昭和49年4月15日判決・交民集7巻2号275頁)
そこでネットの一括査定を利用して概算の査定額を調べてみましょう。
走行距離等に基づいた査定額が分かります。
その価格と上記判決を武器として保険会社と交渉してみましょう。
なお、車の時価は中古車市場での販売価格です。
査定額は中古車販売業者の利益等が差し引かれた買取額なので、交渉する際はその利益分を査定額に上乗せした価格を提示するようにしてください。
一般的に、中古車販売業者は10万円~20万円ほどの金額を仕入価格に上乗せしていますが、交渉事なので、最初は30万円~40万円ほど上乗せしておきましょう。
その他にも、グーネットや価格comなどの中古車販売市場で、車種・年式・走行距離などが同一の中古車を探して、その価格を車の時価額として交渉に用いるのも良いと思います。
探すのが面倒ですが、少しでも多くの保険金を受取るためなら、努力は惜しまない方が良いでしょう。
【判例集】自動車の時価算定の考え方は1つではない
示談交渉の場においては、前述したレッドブックを基準にした自動車の時価評価が行われますが、このレッドブックが絶対的な基準というわけではありません。
自動車の時価評価についての判例を見てみると、個別の事情を加味した判決が下されています。
そこで以下では、「交通事故損害額算定基準(平成26年2月24訂版):公益財団法人 日弁連交通事故相談センター発行」に掲載されている時価評価に関する判例をピックアップして紹介したいと思います。
特殊な設備や仕様の車両の時価評価
特殊な設備や仕様をした車両とは、例えば、床水切り仕様や屋上デッキ等の特別装備をした車両、郵便専用の特別仕様車などの事です。
これらの車両の時価評価方法に関する判例を2つ紹介しておきます。
特別装備が施されているトラックに対して、イエローブック等の中古車価格を「特別装備がされていない価格」と推定して、その価格に同じ装備をする場合の工事費用と登録費用を加算
(岡山地裁・平成元年9月19日判決・交民22巻5号1040頁)
車体部分と特殊仕様部分は同じように減価をすると考え、標準仕様での新車価格と事故時の車両価格をレッドブック等で比較して残価を算定し、特殊仕様部分もその割合で時価を算定
(大阪地裁・平成21年10月7日判決・交民42巻5号1298頁)
営業用車両の時価評価方法
営業用車両とは、レンタカーやタクシーなどの事です。
これらの車両の時価評価に関する判例を3つ紹介します。
レンタカーには通常の中古車市場より2割程度安い市場が存在する事からイエローブック等の価格から約2割価格を安くして時価評価
(旭川地裁・平成13年2月15日判決・交民34巻1号232頁)
初度登録から6年弱が経過したタクシーにつき、減価償却後の価格を同程度の新車車両価格の10%と算定
(神戸地裁・平成18年11月17日判決・交民39巻6号1620頁)
車両本体価格の10%にタクシーとしての特殊装備を加算した価格を時価と算定
(大阪地裁・平成16年9月15日判決・自保ジャーナル1583号2頁)
古い自動車の時価評価方法
ただ単に古い自動車というのではなく、クラシックカーのような希少価値のある車両や整備のための費用が通常の車両よりかかる自動車に関する時価評価の判例です。
初度登録から19年が経過したベンツを100万円で購入し、整備に115万円掛けた車両(合計215万円)を、整備により価値が回復したとして時価を150万円と算定
(京都地裁・平成9年3月25日判決・自保ジャーナル1202号2頁)
限定生産・特別な改造・塗装をした車両の時価評価方法
限定生産車両や特別な改造・塗装をした車両の時価評価に関する判例を3つ紹介します。
ポルシェ911ターボフラットノーズについて、限定生産に関する価値は認めるものの、新車価格や購入価格などから通常の車両のように減価しているとして事故時の価格を算定
(名古屋地裁・平成15年5月9日判決・自保ジャーナル1522号10頁)
約420万円の改造を施したポルシェに関して、改造自体を趣味の範囲であるとし、客観的に価値が増加したとは言えないとして、改造費用を考慮せずに時価評価
(大阪地裁・平成8年3月22日判決・交民29巻2号467頁)
特殊な色を塗装した車両に対して、時価評価において重要なのは色ではなく塗装の状態であるとして、色の付加価値を認めずに通常の中古車市場における価格で評価
(名古屋地裁・平成8年9月18日判決・自保ジャーナル1189号2頁)
取得後間もない車両の時価評価方法
車両取得後間もないうちに事故に遭った場合の時価評価に関する判例です。
初度登録から6ヶ月が経過した車両に関して、経過年数6ヶ月の減価償却後の残存価額を時価として評価
(名古屋地裁・平成9年9月26日判決・交民30巻5号1438頁)
購入後1ヶ月のバイクについて、車両価値の下落が小さいとして、購入金額と同額を時価として評価
(大阪高裁・平成16年3月5日判決・交民37巻2号281頁)
車検の残存期間に関する時価評価
車検の残存期間に関する時価評価について判例です。
7ヶ月の車検残存期間に関する価値を争う裁判において、レッドブックでは車検残存期間1年を前提として価格評価がされていることから、車検の残存期間を考慮せずに時価評価
(東京地裁・平成17年8月25日判決・交民38巻4号1140頁)
車検が23ヶ月残存していた車両では時価に車検分の価値2万5千円を加算
(福岡地裁・平成19年3月2日判決・交民40巻2号359頁)
様々な車両・状況の時価評価に関する判例を紹介してきました。
状況が合致する判例があれば、保険会社との交渉に利用してみてください。
車検の残存期間が1年以上あれば、時価に加算されるかもしれませんね。
まとめ
今回は車の時価の調べ方や算定方法、時価評価に関する判例について紹介しました。
主にレッドブックによって車の時価が算定されますが、それによって提示される価格はあくまで標準的な金額です。
車の時価は千差万別なので、査定を依頼したり、中古車市場で同一車両の価格を調べたりして、情報を揃えた上で保険会社と交渉してくださいね。
なお、自動車保険には「対物超過修理費用補償特約」という修理費用が時価を超えた場合に限度額まで補償をする特約があります。
この特約は、保険料も安く、自動付帯となっている保険会社もあるので、加入率がけっこう高いです。
なので相手方の自動車保険にこの特約が付帯されている可能性があるので、念の為、相手の保険会社に確認しておきましょう。
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