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車両事故における車の損害額は、原則、自動車の修理費用です。(修理費用が時価を超えた場合には時価まで)。
しかし、修理費用以外にも損害として認められるものがあります。
それが「自動車の格落ち(評価損)」です。
自動車の格落ち(評価損)とは
自動車の格落ち(評価損)とは、事故を起こして修理した場合に、その事故歴・修理歴がその車両に付加されて、自動車の価値が下がってしまう事を言います。
例えば、事故前の売却価格が70万円だった車が、修理後に事故車という扱いに変わり売却価格が40万円に下落した場合。
この時、差額30万円が格落ち(評価損)となります。
事故により、修理をしたにも関らず、自動車の価値が下がってしまうのは以下のような理由が考えられます。
■修理したとはいえ、新車同様の機能・性能・保証があるとは言えない
■事故によって損傷を受けていない部分にも負荷が掛かり、事故後故障しやすくなる
■事故車は縁起が悪い
「縁起が悪い」が一番最初に思い浮かぶのではないでしょうか?まったく同じ自動車を2台並べて1台は事故車ですと言われると、誰も事故車を選ぼうとはしませんもんね。
事故車が売れにくい事も価値が下がる1つの原因でしょう。
ただし、全損の場合には格落ち(評価損)は請求できません。
つまり修理をする事が大前提という事です。
ただ、格落ち(評価損)の損害額は例のように簡単に決められるものでは有りません。
正確な数字を出すことが困難な場合が多く、判例上も明確な算定方法は示していません。
なので、1つ1つの事例を見ていき、どの程度まで格落ち(評価損)が認められているのか、という事を参考にしていく他ありません。
それでは、事例を取り上げて格落ち(評価損)の算定方法を見ていきましょう。
修理費用の20%~30%を格落ち(評価損)
判例の中では、自動車の修理費用に対して20%~30%の割合で格落ち(評価損)を認めているものが多いようです。
車種:トヨタ エスティマ
初度登録から2年近く経ち、走行距離も1万km近く計測しているため、付加価値のある高級車とまでは言えない事から修理費用の20%を認めた例
車種:BMW750IL
初度登録から1年近く経過し、走行距離も1万km以上に達している事から修理費用の約30%を認めた例
新車の場合の格落ち(評価損)は多めに判定される
格落ち(評価損)は修理費用の20%~30%が多いのですが、新車だとそれ以上の金額が認められる事が多いようです。
車種:トヨタ ヴェルファイア
納車後5日の新車の格落ち(評価損)は、通常よりも多いとして修理費用の50%を認めた例
車種:日産 スカイラインGTRプレミアム・エディション
生産台数が限定されていること、また初度登録後3ヶ月で走行距離が945kmとわずかであることから、修理費用の50%を認めた例
事故前後の車両価格の差額
事故前の価格を「自動車保険車両標準価格表(損害保険料率算出機構発行)」や「中古車価格ガイドブック(イエローブック)」「オートガイド自動車価格月報(レッドブック)」などから判定し、事故後の下取り価格を㈶日本自動車査定協会でやってもらい、その差額を価格落ち(評価損)とします。
この辺りは「物損事故の損害賠償請求項目のまとめ」も参照してください。
車種:BMW320i4R
事故歴・修理歴により商品価値が低下したとして、㈶日本自動車査定協会が作成した事故減価額証明書等に基いて574,000円の格落ち(評価損)を認めた例
まとめ
以上のように事故車両の格落ち(評価損)は、修理費用に対しての割合で決定される事が多いようです。
ただ、保険会社は営利を優先しているため、示談交渉ではこのような格落ち(評価損)は認めてくれない事が多いです。
交渉の際には、弁護士等の専門家に相談したほうがいいでしょう。
また、格落ち(評価損)は100%認められるわけでは有りませんので、裁判をしたからといって、確実に補償してもらえるとは考えない方が良いでしょう。
専門家からのコメント
中村 傑 (Suguru Nakamura)
大垣共立銀行を退職後、東京海上日動火災保険に代理店研修生として入社。研修期間を経て、2015年に独立開業。2020年に株式会社として法人成り、現在に至る。家業が自動車販売業であり事業承継者でもある。車と保険の両方の業務を兼務しており、専門領域が広い事が強み。
こちらの記事について、実務面から補足させて頂きます。
内容的には記事に書かれている通りですが、軽自動車やコンパクトカーの普及が進んだ昨今においては、評価損で揉める事は減っているのではないかと考えれます。
軽自動車やコンパクトカーというのは、その車体構造上、事故時の衝撃を吸収に車内に伝えないようにする為に、車体の前方と後方は衝撃を吸収するような構造になっています。特に、最近の軽自動車は、狭いエンジンルームの中に、エンジンとミッションが格納され、フロントバンパーにはセンサー類が設置され、ヘッドライトはLEDになっており、高額な装置がフロント周りに集中しております。一度、エアバックが開くなるような事故となれば、修理費>車両保険金額となり、全損と認定される事が多いです。
全損となった際には、多くの損害保険会社において、全損時諸費用が車両保険に加算されて払われる為、多くのケースにおいては修理ではなく買い替えとなる事が多いです。
記事のケースは、買い替えではなく修理となった場合ですので、車体が頑丈な外車や、バン、トラック、等の方は、記事の通りご注意頂いた方がよろしいかと思います。
ここ数年の自動車の進歩進化は目覚ましい勢いであり、車両保険も少しずつ変化してきています。
乗られるお車や、運転の熟練度、等級、ご予算等に応じて、補償内容をご検討頂ければと思います。