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損害賠償額を算定する上で「加害者・被害者双方の過失割合」が重要になってくる事は「過失相殺とは?自動車事故被害者を悩ませる由々しき過失割合」の記事で説明しました。
そして、過失割合は以下の文献を参考にして決められます。
- 民事訴訟法における過失相殺率の認定基準
- 日弁連交通事故相談センターの認定基準
- 東京三弁護士会の認定基準
示談交渉では、これらの認定基準を利用して過失割合を主張していく事になります。
そこで、この認定基準を正確に利用する為に、過失割合表の読み方や用語の説明をしておきたいと思います。
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過失割合表の基本要素
上記の認定基準の過失割合表は、いずれも基本要素と修正要素から構成されています。
基本要素は道路交通法の優先権を基に作成されています。
例えば、信号のある直進車同士の事故の場合には、信号が青の車両の方が赤の車両より道路交通法では優先権があるため、赤信号で交差点に突入した車両の過失割合を大きく設定しています。
このように、過失割合表は交通事故の色んな場面を想定して道路交通法に則って過失割合を設定しています。
基本的に、道交法違反を犯している側の方が、過失割合が大きく設定される事になります。
また、道路交通法の次に基本要素の過失割合の基になる考え方が「優者危険負担の原則」です。
これはサイズの話で大きいものの方が優者となり、小さいものより危険に対して注意する義務や責任を負わせる考え方です。
例えば、車と人で車が優者となり、車と人の事故では、過失割合基準表は車の方の過失割合を大きく設定しています。
優者の順序などは下記記事をご参照下さい。
過失割合表を利用するには、まず事故態様(何と何の事故・どこで事故など)をこの基本要素に照らして基本的過失割合を求めます。
ただこれだけでは最終的な過失割合にはならず、修正要素を見ていき過失の加算・減算をして、最終的な過失割合を求めます。
交通事故の修正要素
基本要素は事故の状況をある程度表す事ができますが、事故現場の道路の状況や明暗など、詳細な項目までは反映出来ていません。
そこで、詳細な事故状況を表す為に修正要素を加味する事になります。
修正要素には「加算要素」と「減算要素」があり、基本要素で求めた基本的過失割合に、該当する修正要素毎に5%~20%の過失割合を加減する事になります。
人対車の事故の主な修正要素
加算要素 | 減算要素 |
---|---|
夜間 | 幼児・児童・老人 |
幹線道路 | 集団横断 |
直前・直後横断 | 重過失・著しい過失 |
佇立 | 歩車道区別なし |
警笛吹鳴あり | 道路交通法71条二号該当 |
上記の表の用語やそれ以外の用語の意味は以下の通りです。
用語 | 意味 |
---|---|
夜間 | 日没から日の出まで (深夜の事故は歩行者の過失が大きくなる) |
幹線道路 | 歩車道が明確で車道の幅が14m以上で 更に通行量が多い国道や県道 |
直前・直後横断 | 飛び出し |
幼児 | 6歳未満 |
児童 | 6歳~12歳 |
老人 | 65歳以上 |
集団横断 | 数人で横断している状態 |
重過失 | 居眠り運転・酒酔い運転・無免許運転 ・30km以上のスピード超過などの 悪質な違反 |
著しい過失 | 著しい前方不注意・酒気帯び運転 ・15km~30km未満のスピード超過など |
佇立 | 横断中に突然立ち止まること |
警笛吹鳴あり | 車両の警笛あり |
歩車道区別なし | 歩道と車道の区別がない道路 |
道路交通法 71条二号 | 車いす・障害者・老人・幼児・児童又は その送迎バスの周りでは一次停止・徐行して 安全を確認し通行を妨げない |
人対車の事故の場合には、主に以上のような修正要素を加味して過失割合を求める事になります。
車両同士の事故の主な修正要素と用語の意味
修正要素 | 用語説明 |
---|---|
交差点などへの先入 | 相手車両(自車両)が明らかに先に交差点に進入している場合 |
大型車 | 優者危険負担の原則によって過失割合が加算 |
減速・徐行無し | 右左折時や交差点進入時などに減速・徐行しなかった場合 |
速度違反 | 時速15㎞以上の速度超過 |
既右折 | 右折車の車体が直進車線にほぼ入っているような場合で直進車が減速する事によって衝突が避けられるような状況 |
道路交通法50条違反 | 交差点や踏切の前方が混雑しているなど進入が禁止される状況下で進入する事 |
直近右折 | 直近とは直進車に対しての距離の事で、通常直進車が交差点付近に来た時に右折を開始場合を言います。 |
早回り右折 | 道交法34条2項通りの右折方法では無い場合。ショートカットのような右折方法。 |
大回り右折 | 道交法34条2項通りの右折方法では無い場合。中央から大きく離れて右折した場合。 |
合図無し | ウィンカーで右左折の指示をしなかった場合 |
右折禁止違反 | 右折が禁止されている交差点などで右折した場合 |
著しい前方不注意 | 脇見運転や携帯電話使用など |
転回危険場所 | 交通量が多い場所や見通しが悪い場所 |
転回禁止場所 | Uターンが禁止の標識がある場所 |
交差点では無い場所 | 店舗の駐車場に進入するなど交差点ではない場所での右左折 |
進路変更禁止区間 | 黄色の車線のある場所での進路変更 |
終点付近 | 高速道路の合流車線が狭くなっていく場所での事故 |
進入速度・進路変更速度が著しく遅い | 高速道路での車線変更や合流地点で進入速度が遅い場合 |
修正要素の殆どが道路交通法に違反する走行方法や歩行方法です。
教習所で学んだ事は、免許を取るためだけではなく、事故に遭った時の過失相殺にも大きく関係してくる事が分かります。
ですので、事故を起こさない為にも、また、もし被害に遭った時に無駄に過失相殺されない為にも、免許をお持ちの皆さんは教習所で習った事を思い出して、交通ルールに則った運転をするようにしましょう。
【コラム】過失相殺は何を基準に決定?
過失割合を求める時は、過失相殺が行われる事が前提になっていますので、過失相殺が行われなければ過失割合で揉める事は有りません。
では、過失相殺を行う判断基準はいったい何なんでしょう?
裁判では過失相殺は裁判官の裁量によって決定します。
民法722条2項では以下のように規定されています。
(損害賠償の方法及び過失相殺)
第七百二十二条2項 被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。
つまり、過失相殺を行うかは裁判官が自由に決定できるわけです。
そのため、法廷で過失相殺について主張する場合には、提出する証拠が重要になります。
裁判官が過失相殺を決定する際に、証拠としてよく取り扱うものは刑事裁判記録です。
■主な刑事裁判記録
なぜ、刑事裁判記録が重要証拠として取り扱われるのか?
交通事故の示談交渉や損害賠償請求訴訟は、事故後かなり日数が経ってから行われます。
参考:「示談交渉を始める時期・タイミング」
そのため、実際に民事裁判を行う時点では、目撃者や当事者の記憶がかなり曖昧になってしまっています。
しかし、刑事裁判記録は事故直後に作成され、加害者・被害者の片方又は双方の捺印・署名がされているため、証拠力が高いのです。
なので、過失相殺の判断の基準としては「刑事裁判記録」が利用される事が一般的となっています。
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