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人身傷害補償保険は、当時の東京海上がその他の損保会社に先駆けて、1998年に販売開始した特約の一つです。
外資企業参入による値下げ圧力が高まる中、国内の損保として、どうやって収益を確保していくか?という所から開発されたのが、この「人身傷害補償保険」であり、東京海上が発売開始して以降、その他の国内損保会社もそれに追随するほどのヒット商品となりました。
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人身傷害補償保険は被害者保護を重視する保険
日本の自動車保険は、人身傷害補償保険が販売される前まで、対人賠償や対物賠償など「加害者側の賠償責任」を負担するものがメインでした。
一方で、人身傷害保険は対被害者(対人や対物)という側面からではなく、自分が自動車事故の被害者となった場合に、示談の交渉や裁判での過失割合の決定を待たずに補償金を払ってくれる、被害者保護を重視した保険です。
特に、「被害者の過失に関係なく保険金を支払う」というシステムは、非常に画期的であり、この事が理由で加入者は爆発的に増えていきました。ちなみに、現在、任意保険加入者の約8割が、人身傷害保険(特約)を付帯しているとされています。
人身傷害補償保険に入ることのメリット
このセクションでは、人身傷害補償保険に入るメリットを具体的に紹介していきます。
但し、損保会社の保険金不払問題が発覚して以降、保険内容を改悪する損保会社が増えているので、契約の際には、保険料のみならず保険約款をしっかりと読んでから、加入する損保会社を決めるのが吉です。(人身傷害保険だけに限った問題では有りませんが。)
過失の有無関係なく保険金が支払われる
先程も書きましたが、人身傷害補償保険の最大の特徴は、被害者の過失の有無に関係なく保険金が支払われることに有ります。
対人賠償保険では、被害者側に過失が有ると、その過失割合分だけ受け取る保険金が少なくなりますが、人身傷害補償保険に入っていれば、過失相殺された残りの部分も受け取る事が出来るのです。
また、相手側損保は「示談が確定した後」もしくは「裁判をする場合には、結審が出た後」にしか保険金を支払ってくれませんが、人身傷害保険に入っていれば、それを待たずに自分の保険会社から保険金を貰えます。
カバーできる対象者が非常に広い
人身傷害保険でカバーできる対象者は非常に広いです。そういう意味でも、絶対に加入しておきたいオプションです。
■人身傷害保険でカバーできる対象者一覧
- ①自動車の被保険者(所有者)
- ②その配偶者(内縁の妻も含む-但し不倫中の愛人などは除く)
- ③両者(①と②)の同居している親族
- ④別居している未婚の子供(一度結婚してしまうとOUTです)
- ⑤事故時に同乗していた他人
③カバーしてくれるシチュエーションも広い(車内外補償型の場合)
人身傷害補償保険では、「A:対象者が契約車両に乗っていた時に起こした事故」のみならず、「B:バス・タクシー・知人の車など他車(*1)に乗車中の事故」「C:歩行中・自転車走行中に起こった自動車事故」の補償まで行ってくれます。
*1 他車には「同居の親族の車や別居の未婚の子供の車」は含まれません。
例えば、息子がプリウス。親がマーチを所有。そして、息子の保険契約にだけ「車内外補償型の人身傷害保険」を付帯し、親の保険契約には人身傷害保険が付帯されていなかったとします。
この時、親がマーチで出かけて事故に有ったとしても、息子の人身傷害補償保険から保険金は支払われない、という事です。
これは、一つの人身傷害補償保険で、複数の車の事故を補償対象にしてしまうのを避けるための措置です。補償を受けたければ、親が自分で「車内のみ補償型の人身傷害保険」に入っておく必要が有ります。
なお、「B・C」の事故の場合に補償されるのは、記名被保険者本人と家族だけです。自分が加入している保険で、家族ではない他人の歩行中の事故が補償されるなんて有り得ないですよね。なので、他人が補償されるのは「自分の車に同乗している時」だけです。
従来型の自動車保険では補償してくれない部分も対象に!
人身傷害保険の登場により、今までの自動車保険では補償されなかった部分の補償を受けられるようになりました。専門用語で「担保危険の拡張がされた」なんて言います。
加害者無責の場合も補償
自賠責保険においては、加害者の無責が立証されると、被害者への保険金が支払われません。しかし、人身傷害補償保険では、加害者無責が立証された場合でも保険金を受け取る事が出来ます。
被害者の他人制が認められない場合も補償対象
自賠法においては、「被害者と運転者との他人性」が認められない場合、保険金が支払われない可能性が有ります(*1)。
*1 例えば、Aさんの車で「Aさんとその友人であるBさん」が旅行に出かけたとします。最初は、Aさんが運転していたが、途中でBさんに替わり、Bさんの運転中に事故を起こして死傷した場合。
この時、Bさんは共同運行供用者と判断されて、賠償金を受け取れない可能性が有るという事です。
人身傷害補償保険では、このような場合でも問題なく保険金が支払われます。
混同の場合も補償を引き継げる
混同とは、「賠償請求者と賠償義務者が同一人物に帰属している事」を言います。
例えば、夫婦でドライブ中に事故が起こしてしまい、助手席にいた妻が亡くなってしまった場合。この時、夫には「妻に対する損害賠償義務」と「亡くなった妻から相続する損害賠償債権」の2つが同時に存在していますよね。
通常であれば、この債権債務は「混同」により相殺されます(民法520条)。しかし、人身傷害補償保険では妻が亡くなったことに対する債権部分の補償も認めています。
加害者不明や加害者無保険の場合も補償対象
- 当て逃げなどで加害者が誰か分からない場合
- 加害者が自賠責に無加入の場合
このようなケースでは、自賠責保険からの補償が受けられません。そもそも、誰に請求すれば良いのか分かりませんからね。一応、このような場合には、自賠責保険からではなく「政府保障事業」から支払いを受けることが出来るのですが、政府保障事業は自賠責保険と同様に限度額が決まっています。
従って、満足いく補償が受けられない可能性が有ります。人身傷害補償保険に加入していれば、このようなケースでも「保険会社の約款に基づいて計算された損害額」をスピーディーに受け取る事が可能です。
まとめ
人身傷害補償保険には、今までの自動車保険には無かった大きなメリットが沢山有ります。
特に、損害額さえ決定していれば、過失割合に関係なく、自分が加入している保険会社からスピーディーに支払を受けられるのは、被害者にとっては大きなメリットです。また、定額給付タイプの傷害保険ではなく実損てん補型の傷害保険であることも魅力です。
自動車を運転するなら、必ず加入しなければならない保険(特約)と言ってもよいでしょう。人身傷害補償保険の保険金額の計算に当たっては、下記記事も参考にしてみて下さい。
専門家(FP・損保プランナー)からのコメント
菊地 季美子(Kimiko Kikuchi)
生命保険会社2社に合計8年の在籍後、損害保険へ転向。3年の営業店事務経験ののち損害保険代理店に転職、自動車保険・火災保険の設計を担当し、相談件数は在籍3年で800件を超える。現在はフリーランスでFP資格試験の講師、セミナー、執筆活動を行っている。
<保有資格> FP技能士3級・2級、日本FP協会認定AFP、トータルライフコンサルタント、損害保険プランナー
コメント
自動車保険の人身傷害補償特約は、生命保険の特約や社会保障の傷病手当金を補填する損害保険特有の性質にメリットがあります。
まず生命保険との違いは、保険料の算定が定額という点です。
生命保険は日額×日数の定額払いですが、自動車保険の人身傷害が補償するのは逸失利益ですから、入院や手術などの治療費はもちろん、治療の間になくなる収入の補填、精神的慰謝料、後遺障害が発生したときの介護料など、生命保険だけでは足りなくなる部分を補えます。
加えて社会保障の傷病手当金も、待機期間の3日間は保障されない、支給される金額は収入のおおよそ3分の2であるなど、100%の保障がある訳ではないので、その補填にも人身傷害が役立ちます。
さらに、事故の相手が本人配偶者間や会社の同僚という場合は対人賠償が成り立たないので、その方面からも人身傷害は有用と言えます。
中村 傑 (Suguru Nakamura)

大垣共立銀行を退職後、東京海上日動火災保険に代理店研修生として入社。研修期間を経て、2015年に独立開業。2020年に株式会社として法人成り、現在に至る。家業が自動車販売業であり事業承継者でもある。車と保険の両方の業務を兼務しており、専門領域が広い事が強み。
コメント
こちらの記事を補足させて頂きますと、自動車保険の人身傷害保険は、車の乗降に起因する事故による怪我を補償する点と、人身傷害保険のみ使用する場合には等級ダウンしない、という特徴があります。
人身傷害保険のみ使用するケースというのは稀ですが、過去に2度ありましたので、ご紹介させて頂きます。
1つ目は、2歳のお子様がチャイルドシートのシートベルトを自分で外し、シートから落下、手首の骨を折るという重症を負ったケースです。
2つ目は、トラックの運転手が降車する際に足を踏み外してしまい半月板損傷してしまったケースです。
どちらのケースも等級ダウンする事なく、保険金をお支払いする事が出来ました。
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