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交通事故に遭い、家族が死亡又は重い後遺障害を負った時に、加害者(保険会社)に対して損害賠償請求裁判を起こす人もいます。
なぜなら、示談において”保険会社が採用する自賠責基準又は任意保険基準での保険金支払額”と”裁判において採用される裁判基準(弁護士基準)”での保険金支払額の差が大きいからです。
基本的に裁判基準での損害賠償金の方が大きな金額になります。
ただ、裁判に訴えることによって貰える損害賠償額が小さくなってしまう危険性が有ることも認識しておかなければなりません。
自賠責保険は被害者救済の目的が第一義
「日弁連基準・裁判基準での損害額計算方法」で見たように、確かに裁判基準と自賠責基準の保険金額には大きな差が有ります。しかし、自賠責基準には裁判基準には無い大きなメリットが有ります。
それが「重過失減額制度」と呼ばれる制度です。この制度は、被害者に重大な過失が認められない場合には、保険金の減額を一切認めないという制度です(自賠責保険の限度額内においては過失相殺が行われないという事)。
①家族を失って心身ともに疲弊している遺族に余計な負担をかけずに迅速に保険金を支払う、という被害者救済の目的
②数多く発生する事故毎に過失相殺の割合を判断するのは実務上困難で有る事
重大な過失の目安は7割です。7割未満の過失であれば、自賠責基準のもとでは”被害者にどんな過失があろう”と、計算された保険金額が満額支払われます。しかし、裁判に訴えればその時点で「重過失減額制度」の適用は無くなります。
訴訟を起こした家族に待つもの
多くの被害者は、自賠責基準と裁判基準の損害額の算定結果に大きな差異が発生することを知りません。しかし、中にはおかしいと思って弁護士に相談する人もいるようです。そこで真実を知り、訴訟を起こす人もいます。
そんな家族に待っているのは裁判にかける多大な時間と費用です。もちろん、勝訴すればある程度は報われるでしょうが、敗訴すればこれまでにかかった時間はもちろん裁判費用までも負担しなければなりません。
更に、裁判で追い打ちをかけてくるのが加害者側からの「過失相殺」の主張です。
過失相殺の主張とは簡単に言うと「被害者にも落ち度が有ったのだからその分については支払いませんよ」という主張ですね。しかも過失相殺が認められると弁護士費用を除く全ての損害額に減額率が掛けられます。
仮に、裁判基準による損害額が5千万円で被害者の過失割合が50%だとすると、結局2,500万円の損害賠償金しか支払われず、結果として自賠責基準よりも低い賠償額になる可能性もあります。
こんな場合に被害者の過失割合はどうなる?
参考までに、シチュエーション別に想定される被害者の過失割合を見ておきましょう。(参考:過失相殺事例のまとめ)
- 赤信号無視(歩行者)・・・60%~80%
- 赤信号無視(自転車)・・・50%~85%
- 車同士の出会い頭の衝突・・・50%
- 横断歩道以外の歩行・・・10%~30%
もちろん、現場検証や目撃者の証言を踏まえて、個別具体的な判断は加えられるのですが、原則は上記のような感じになります。
素人目線では、歩行者が赤信号を無視していたとしても、車でひいてしまった加害者の方が悪い!と考えがちですが、赤信号無視は被害者の重大な過失と認定されます。これは、通常の示談でも同様です。
損害額が1億円でも、加害者側からの赤信号無視の過失相殺の主張が通れば80%減額で“2,000万円しか貰えない”という可能性も有りえます・・・。
最後に・・・
何度も言いますが、訴訟に踏み切ると”過失相殺が適用されて保険金が減る”というリスクが有ります。そのため、過失の程度や損害賠償の請求金額などを考慮して裁判をするようにして下さい。
なお、過失相殺が適用されても減少分を補填してくれる保険が有ります。それが自動車保険の「人身傷害補償保険」です。人身傷害補償保険についての詳細は下記記事を参考にして下さい。
人身傷害補償保険(特約)のメリット~これが有れば過失が有っても大丈夫!
専門家からのコメント
中村 傑 (Suguru Nakamura)
大垣共立銀行を退職後、東京海上日動火災保険に代理店研修生として入社。研修期間を経て、2015年に独立開業。2020年に株式会社として法人成り、現在に至る。家業が自動車販売業であり事業承継者でもある。車と保険の両方の業務を兼務しており、専門領域が広い事が強み。
コメント
残念ながら、交通事故により裁判にまで発展するケースは少なからずあります。また、自動車保険の弁護士費用特約は、特約のみ使用しても等級が下がりませんので、少しでも自分の意向に沿わない場合、示談交渉が難航し保険会社が弁護士に外注する場合、そもそもから複雑な事案等の場合、訴訟にまで発展します。
訴訟になった場合、私の経験上、裁判に至るまでに1年以上の時間を必要とします。裁判付近になると、一般的なケースで「和解案」が提示され、その内容で示談出来ない場合、裁判となり判決が言い渡されます。
懇意にしていた弁護士から、「和解」というものは、内容はどうあれ自分の意思を反映する事ができますが、「判決」は赤の他人が決めた事に従う事、その違いを良く考えて決める必要がある、と教えて頂いた事があります。
代理店としては、裁判に発展せず早期に示談となるのが望ましいと考えています。
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